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STORY

2015SS365

砂のクジラ

 

 

1/3:STORY_[seeds]

 

茫漠の砂の世界。希望を宿し点々と存在するオアシス。

 

オアシスを転々と旅する音楽一座「砂のクジラ団」

長い旅路の中で獲得した様々な宝飾品や文化を身に纏う。

彼等が長い時の中で習得した音楽や踊りはどこの国のそれとも似ない。.

突然始まる彼らの舞台にオアシスの住民は魅了される。

何でもない日常と人々の常識を吹き飛ばす爆弾。

 

彼等はオアシスに滞在中、誰とも関わりを持たない。

数日間とどまる事もあれば、ひと季節とどまる事もある。

ただいつも、彼らは忽然と夜のうちに旅立つ。

次の太陽が昇る頃には蜃気楼のように不確かな存在へと変わる。

 

濃紺に砂をまいたような宇宙。

まだ熱を残す熟れ過ぎたトマト色の大地。

砂漠の中を、キラキラと光を反射して存在を示す魚影。

それとも、砂の波間で存在をみせるクジラ。

砂漠の旅路、彼らは無駄と知りつつ種を蒔く。

乾いた大地に、人々のココロに。。

 

 

 

ー2/3:STORY_[flower]ー

 

砂のクジラ団が砂漠に蒔いた種は少しずつ砂漠の景色を変える。

長い年月の中で一座の顔ぶれも様々に変わる。

ただ、その変化に気がつくオアシスの住人はいない。

顔ぶれの変化に伴って、彼等の音楽や踊りも少しずつ変化する。

ただ、砂のクジラ団の個性はその変化を気がつかせない。

なにせ、彼等が蜃気楼となってから、同じオアシスに巡回してくるには

膨大な時間と出来事の先なのだから。

 

彼等の蒔いた種が乾いた大地に芽を出し始めた。

様々な植物が芽を出し、花が咲き、虫や鳥達が訪れるようになる。

人が住むには不十分な場所だが、砂漠とは呼べない世界が

彼等の蒔いた種によって生まれたのだ。

 

ある時、一座は生まれたてのオアシスで眩しく光る生命に出逢う。

経緯は分からないものの、一度捨てられた命を一座は迎え入れた。

赤子は「花」という意味の名をもらい一座によって大切に育てられた。

彼女の存在によって一座はオアシスに滞在中たくさんの人々と関わりをはじめる。

ある時はミルクやパンを手に入れるため、ある時は医者をさがすため。

そして彼女の存在がこの世界自体をも、大きく変え始めたのでした。

 

 

ー3/3:STORY_[fruit]ー

 

ハナの存在によって彼等は蜃気楼ではなくなりました。

相変わらずオアシスを転々と旅する一座でしたが、

どのオアシス(街)に行っても、彼等は待ちかねたように招かれ、

異国の話をせがまれるようになりました。

彼等は別れを惜しみ旅立つようになりました。

別れの後もオアシスの人々は彼等の日々を想像するようになりした。

 

砂漠の景色も大きく変わりました。以前オアシスだった場所は

大きな街となり、オアシスとオアシスをつないでいた貧弱な道は

十分な大地に変わり少しばかりの住居や、畑や農地に開拓されました。

その頃からオアシス同士での交流も始まり、いつしか多くの人々にとって

その土地が乾いた死の世界“砂漠”であった記憶も消えていました。

 

豊かになったその世界はいつしかひとつの国となりました。

しかし、人々にとって砂漠の世界を豊かな国に成し遂げた成果が

ある音楽一座の功績として思い出される事はありませんでした。

長い長い時間が彼等の特異性を個々の国民性へと同調させたのです。

その国には変わった名前がありますが、その名前の由来を知る者はいません。

しかし、みなはその名に誇りを持っています。その国の名前は、

 

砂のクジラ

 

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